2012年09月20日
第5話 羽衣伝説
日本各地に残る羽衣伝説
羽衣伝説は日本各地に存在しているようですが、やはり一番有名なのは、わが静岡の三保の松原(静岡市清水区)ではないでしょうか。
天界に住み、神に仕えている天女。でもちょっと普通の女の子の暮らしにも憧れて下界に遊びにきてしまい、窮屈な羽衣を脱いで、水浴びなんかをしていたのです。それを目撃した下界の男性が、天女のあまりの美しさにメロメロになり、天に帰れなくなるように羽衣を隠したというのが、天女伝説の基本的なお話。帰れなくなった天女は下界の男性と結婚して子どもを産んだり、老夫婦の子として引き取られたり、神様となって崇められたり、いろいろな人生を歩んでいます。そのまま下界にとどまる天女もいれば、羽衣を見つけて帰っていく天女もいるそうです。
三保に降りた天女の優雅な舞
三保に舞い降りた天女が、水浴びのために脱いだ羽衣をかけたといわれる「羽衣の松」があります。この松は老齢により世代交代が行われており、現在の松は三代目です。また、羽衣の切れ端が近くの御穂(みほ)神社に保存されています。三保には他の天女伝説とはちょっと違ったお話が残っています。

2010年に世代交代された羽衣の松
白龍という名の漁師が一本の大きな松に見たこともないような美しい着物がかかっているのを見つけました。その着物を持ち帰ろうとした時、「それは私の着物です。どうか持っていかないでください」という声が聞こえ、振り返ると美しい女性が立っていました。
「私は天女です。その着物は羽衣といってあなたがたにはご用のないものです。どうぞ返してください」
それを聞いた白龍は、天女の羽衣ならますます返したくなくなりました。
「その羽衣がないと天に帰ることができません。お願いですから返してください」と悲しみにくれる天女の姿を見て、白龍もさすがにかわいそうになり、「この羽衣はお返ししましょう。かわりに天人の舞を見せてください」と羽衣を返しました。
天女はふわふわと空へ舞い上がり、どこからともなく笛や鼓の音も聞こえてきます。この世にはないような天女の優雅な舞に白龍が見とれている間に、天女はだんだんと天へ昇り、霞にまぎれて富士山の彼方へと消えていきました・・・。

美しい松が約5万4千本、約7kmにわたって続く三保の松原
毎年10月に行なわれる「羽衣まつり」では、羽衣の松の前に特設の能舞台が設けられ、駿河湾や富士山を借景に、三保羽衣薪能が演じられます。
三保の景色があまりにのどかで美しく、つい心を奪われて天から降りてきてしまったという天女。青い海と深い緑の松の向こうにそびえ立つ富士の姿は、時代を越えて、さらには天界に住む天人の心までもとらえる絶景なのでありましょう。
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◆クリックして、このコラムの他の記事を読む
第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
羽衣伝説は日本各地に存在しているようですが、やはり一番有名なのは、わが静岡の三保の松原(静岡市清水区)ではないでしょうか。
天界に住み、神に仕えている天女。でもちょっと普通の女の子の暮らしにも憧れて下界に遊びにきてしまい、窮屈な羽衣を脱いで、水浴びなんかをしていたのです。それを目撃した下界の男性が、天女のあまりの美しさにメロメロになり、天に帰れなくなるように羽衣を隠したというのが、天女伝説の基本的なお話。帰れなくなった天女は下界の男性と結婚して子どもを産んだり、老夫婦の子として引き取られたり、神様となって崇められたり、いろいろな人生を歩んでいます。そのまま下界にとどまる天女もいれば、羽衣を見つけて帰っていく天女もいるそうです。
三保に降りた天女の優雅な舞
三保に舞い降りた天女が、水浴びのために脱いだ羽衣をかけたといわれる「羽衣の松」があります。この松は老齢により世代交代が行われており、現在の松は三代目です。また、羽衣の切れ端が近くの御穂(みほ)神社に保存されています。三保には他の天女伝説とはちょっと違ったお話が残っています。

2010年に世代交代された羽衣の松
白龍という名の漁師が一本の大きな松に見たこともないような美しい着物がかかっているのを見つけました。その着物を持ち帰ろうとした時、「それは私の着物です。どうか持っていかないでください」という声が聞こえ、振り返ると美しい女性が立っていました。
「私は天女です。その着物は羽衣といってあなたがたにはご用のないものです。どうぞ返してください」
それを聞いた白龍は、天女の羽衣ならますます返したくなくなりました。
「その羽衣がないと天に帰ることができません。お願いですから返してください」と悲しみにくれる天女の姿を見て、白龍もさすがにかわいそうになり、「この羽衣はお返ししましょう。かわりに天人の舞を見せてください」と羽衣を返しました。
天女はふわふわと空へ舞い上がり、どこからともなく笛や鼓の音も聞こえてきます。この世にはないような天女の優雅な舞に白龍が見とれている間に、天女はだんだんと天へ昇り、霞にまぎれて富士山の彼方へと消えていきました・・・。

美しい松が約5万4千本、約7kmにわたって続く三保の松原
毎年10月に行なわれる「羽衣まつり」では、羽衣の松の前に特設の能舞台が設けられ、駿河湾や富士山を借景に、三保羽衣薪能が演じられます。
三保の景色があまりにのどかで美しく、つい心を奪われて天から降りてきてしまったという天女。青い海と深い緑の松の向こうにそびえ立つ富士の姿は、時代を越えて、さらには天界に住む天人の心までもとらえる絶景なのでありましょう。
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第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年09月06日
第4話 遠州天狗伝説
秋葉山の天狗
『天狗』といえば真っ先に、居酒屋チェーン(静岡では和風レストランの天狗が多いですが)を思い浮かべてしまう私。“鼻が長く真っ赤な怖い顔をして、高いゲタを履き、葉っぱのような扇子を持ち、時々空を飛んじゃう妖怪”というイメージだけで、具体的にどんな生き物(?)なのかよく知りませんでした。「天狗って山で修行するお坊さんの進化系なのね!」と今回初めて認識したくらいで、悪い人なのか良い人なのかもわからなかったのです。
静岡県では浜松市天竜区春野町の秋葉山の天狗(秋葉山三尺坊大権現)が有名です。一説によると三尺坊は長野出身のお坊さんで、修行を積んで天狗となったのちに秋葉山に降り立ち、そこでさらに火伏の秘法を習得したそう。そして、秋葉寺に火伏の神として祀られていました。秋葉山には秋葉神社と秋葉寺があり、かつては神仏習合で成り立っていましたが、明治時代の神仏分離令などにより秋葉寺は廃寺となり、ご神体である三尺坊は袋井市の可睡斎へと移されました。あくまでも人間の都合なので、三尺坊の心のふるさとは秋葉山であり、おおらかな心で遠州一帯を守っていることでしょう。

袋井市にある秋葉総本殿『可睡斎』の天狗
袋井・森町方面からけっこうな山道をうねうねと登り、ひたすら走り続けると、『春野いきいき天狗村』というドライブインが見えてきます。裏手にはキレイな浅い川が流れていて、と~っても静かでのどか。美しい鳥のさえずりしか聞こえず、“これぞ日本の山里”という風景に和まされるのです。
もう少し先へ行くと、春野文化センターに、日本一大きな天狗の面がドドーンと鼻高々に鎮座しております。下にいる人間と比べるとその大きさが分かりましょう。

春野文化センターにある日本一大きな天狗のお面
小笠山の天狗
天狗にまつわるもう一つのお話。掛川市と袋井市にまたがる小笠山では『天狗囃子』と呼ばれる不思議な現象があり、何もない山から「ピ、ピ、ピ、ピーヒョロ、ピーヒョロ」とお祭りのお囃子の音が聞こえてくるというのです。
昔々、母を洪水で亡くした小太郎という少年がいました。幼いころ母に教わった笛が得意な小太郎は、小笠山の天狗は笛が好きだという噂を聞き、小笠神社の前で笛を吹き始めました。すると大天狗が現れ、小太郎の笛の腕前を褒め「おまえ、天狗にならんか?」と熱心に勧めたそうな。そこで小太郎は「人間より長く生き続けるなら、天狗になって困っている人を救いたい」と、小笠山での厳しい修行が始まりました。小太郎はそれを耐え抜き、大天狗から『多聞天』という名前をもらい、小笠山の守り神となりました。そして母の命を奪った川の洪水を防ぐために小笠山の森を立派に育て、苦しむ村人たちを救ったのです。今でも時おり聞こえるお囃子は、小太郎が吹く笛の音だといわれています。
山で修行し、災いから人々を守り続ける天狗。調子にのって自慢していい気になっている人を『天狗になる』といいますが、本物の天狗は……実は立派な人ばかりでした。
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第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
『天狗』といえば真っ先に、居酒屋チェーン(静岡では和風レストランの天狗が多いですが)を思い浮かべてしまう私。“鼻が長く真っ赤な怖い顔をして、高いゲタを履き、葉っぱのような扇子を持ち、時々空を飛んじゃう妖怪”というイメージだけで、具体的にどんな生き物(?)なのかよく知りませんでした。「天狗って山で修行するお坊さんの進化系なのね!」と今回初めて認識したくらいで、悪い人なのか良い人なのかもわからなかったのです。
静岡県では浜松市天竜区春野町の秋葉山の天狗(秋葉山三尺坊大権現)が有名です。一説によると三尺坊は長野出身のお坊さんで、修行を積んで天狗となったのちに秋葉山に降り立ち、そこでさらに火伏の秘法を習得したそう。そして、秋葉寺に火伏の神として祀られていました。秋葉山には秋葉神社と秋葉寺があり、かつては神仏習合で成り立っていましたが、明治時代の神仏分離令などにより秋葉寺は廃寺となり、ご神体である三尺坊は袋井市の可睡斎へと移されました。あくまでも人間の都合なので、三尺坊の心のふるさとは秋葉山であり、おおらかな心で遠州一帯を守っていることでしょう。
袋井市にある秋葉総本殿『可睡斎』の天狗
袋井・森町方面からけっこうな山道をうねうねと登り、ひたすら走り続けると、『春野いきいき天狗村』というドライブインが見えてきます。裏手にはキレイな浅い川が流れていて、と~っても静かでのどか。美しい鳥のさえずりしか聞こえず、“これぞ日本の山里”という風景に和まされるのです。
もう少し先へ行くと、春野文化センターに、日本一大きな天狗の面がドドーンと鼻高々に鎮座しております。下にいる人間と比べるとその大きさが分かりましょう。
春野文化センターにある日本一大きな天狗のお面
小笠山の天狗
天狗にまつわるもう一つのお話。掛川市と袋井市にまたがる小笠山では『天狗囃子』と呼ばれる不思議な現象があり、何もない山から「ピ、ピ、ピ、ピーヒョロ、ピーヒョロ」とお祭りのお囃子の音が聞こえてくるというのです。
昔々、母を洪水で亡くした小太郎という少年がいました。幼いころ母に教わった笛が得意な小太郎は、小笠山の天狗は笛が好きだという噂を聞き、小笠神社の前で笛を吹き始めました。すると大天狗が現れ、小太郎の笛の腕前を褒め「おまえ、天狗にならんか?」と熱心に勧めたそうな。そこで小太郎は「人間より長く生き続けるなら、天狗になって困っている人を救いたい」と、小笠山での厳しい修行が始まりました。小太郎はそれを耐え抜き、大天狗から『多聞天』という名前をもらい、小笠山の守り神となりました。そして母の命を奪った川の洪水を防ぐために小笠山の森を立派に育て、苦しむ村人たちを救ったのです。今でも時おり聞こえるお囃子は、小太郎が吹く笛の音だといわれています。
山で修行し、災いから人々を守り続ける天狗。調子にのって自慢していい気になっている人を『天狗になる』といいますが、本物の天狗は……実は立派な人ばかりでした。
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第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
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第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
Posted by eしずおかコラム at 12:00