2012年09月06日
第4話 遠州天狗伝説
秋葉山の天狗
『天狗』といえば真っ先に、居酒屋チェーン(静岡では和風レストランの天狗が多いですが)を思い浮かべてしまう私。“鼻が長く真っ赤な怖い顔をして、高いゲタを履き、葉っぱのような扇子を持ち、時々空を飛んじゃう妖怪”というイメージだけで、具体的にどんな生き物(?)なのかよく知りませんでした。「天狗って山で修行するお坊さんの進化系なのね!」と今回初めて認識したくらいで、悪い人なのか良い人なのかもわからなかったのです。
静岡県では浜松市天竜区春野町の秋葉山の天狗(秋葉山三尺坊大権現)が有名です。一説によると三尺坊は長野出身のお坊さんで、修行を積んで天狗となったのちに秋葉山に降り立ち、そこでさらに火伏の秘法を習得したそう。そして、秋葉寺に火伏の神として祀られていました。秋葉山には秋葉神社と秋葉寺があり、かつては神仏習合で成り立っていましたが、明治時代の神仏分離令などにより秋葉寺は廃寺となり、ご神体である三尺坊は袋井市の可睡斎へと移されました。あくまでも人間の都合なので、三尺坊の心のふるさとは秋葉山であり、おおらかな心で遠州一帯を守っていることでしょう。

袋井市にある秋葉総本殿『可睡斎』の天狗
袋井・森町方面からけっこうな山道をうねうねと登り、ひたすら走り続けると、『春野いきいき天狗村』というドライブインが見えてきます。裏手にはキレイな浅い川が流れていて、と~っても静かでのどか。美しい鳥のさえずりしか聞こえず、“これぞ日本の山里”という風景に和まされるのです。
もう少し先へ行くと、春野文化センターに、日本一大きな天狗の面がドドーンと鼻高々に鎮座しております。下にいる人間と比べるとその大きさが分かりましょう。

春野文化センターにある日本一大きな天狗のお面
小笠山の天狗
天狗にまつわるもう一つのお話。掛川市と袋井市にまたがる小笠山では『天狗囃子』と呼ばれる不思議な現象があり、何もない山から「ピ、ピ、ピ、ピーヒョロ、ピーヒョロ」とお祭りのお囃子の音が聞こえてくるというのです。
昔々、母を洪水で亡くした小太郎という少年がいました。幼いころ母に教わった笛が得意な小太郎は、小笠山の天狗は笛が好きだという噂を聞き、小笠神社の前で笛を吹き始めました。すると大天狗が現れ、小太郎の笛の腕前を褒め「おまえ、天狗にならんか?」と熱心に勧めたそうな。そこで小太郎は「人間より長く生き続けるなら、天狗になって困っている人を救いたい」と、小笠山での厳しい修行が始まりました。小太郎はそれを耐え抜き、大天狗から『多聞天』という名前をもらい、小笠山の守り神となりました。そして母の命を奪った川の洪水を防ぐために小笠山の森を立派に育て、苦しむ村人たちを救ったのです。今でも時おり聞こえるお囃子は、小太郎が吹く笛の音だといわれています。
山で修行し、災いから人々を守り続ける天狗。調子にのって自慢していい気になっている人を『天狗になる』といいますが、本物の天狗は……実は立派な人ばかりでした。
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◆クリックして、このコラムの他の記事を読む
第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
『天狗』といえば真っ先に、居酒屋チェーン(静岡では和風レストランの天狗が多いですが)を思い浮かべてしまう私。“鼻が長く真っ赤な怖い顔をして、高いゲタを履き、葉っぱのような扇子を持ち、時々空を飛んじゃう妖怪”というイメージだけで、具体的にどんな生き物(?)なのかよく知りませんでした。「天狗って山で修行するお坊さんの進化系なのね!」と今回初めて認識したくらいで、悪い人なのか良い人なのかもわからなかったのです。
静岡県では浜松市天竜区春野町の秋葉山の天狗(秋葉山三尺坊大権現)が有名です。一説によると三尺坊は長野出身のお坊さんで、修行を積んで天狗となったのちに秋葉山に降り立ち、そこでさらに火伏の秘法を習得したそう。そして、秋葉寺に火伏の神として祀られていました。秋葉山には秋葉神社と秋葉寺があり、かつては神仏習合で成り立っていましたが、明治時代の神仏分離令などにより秋葉寺は廃寺となり、ご神体である三尺坊は袋井市の可睡斎へと移されました。あくまでも人間の都合なので、三尺坊の心のふるさとは秋葉山であり、おおらかな心で遠州一帯を守っていることでしょう。
袋井市にある秋葉総本殿『可睡斎』の天狗
袋井・森町方面からけっこうな山道をうねうねと登り、ひたすら走り続けると、『春野いきいき天狗村』というドライブインが見えてきます。裏手にはキレイな浅い川が流れていて、と~っても静かでのどか。美しい鳥のさえずりしか聞こえず、“これぞ日本の山里”という風景に和まされるのです。
もう少し先へ行くと、春野文化センターに、日本一大きな天狗の面がドドーンと鼻高々に鎮座しております。下にいる人間と比べるとその大きさが分かりましょう。
春野文化センターにある日本一大きな天狗のお面
小笠山の天狗
天狗にまつわるもう一つのお話。掛川市と袋井市にまたがる小笠山では『天狗囃子』と呼ばれる不思議な現象があり、何もない山から「ピ、ピ、ピ、ピーヒョロ、ピーヒョロ」とお祭りのお囃子の音が聞こえてくるというのです。
昔々、母を洪水で亡くした小太郎という少年がいました。幼いころ母に教わった笛が得意な小太郎は、小笠山の天狗は笛が好きだという噂を聞き、小笠神社の前で笛を吹き始めました。すると大天狗が現れ、小太郎の笛の腕前を褒め「おまえ、天狗にならんか?」と熱心に勧めたそうな。そこで小太郎は「人間より長く生き続けるなら、天狗になって困っている人を救いたい」と、小笠山での厳しい修行が始まりました。小太郎はそれを耐え抜き、大天狗から『多聞天』という名前をもらい、小笠山の守り神となりました。そして母の命を奪った川の洪水を防ぐために小笠山の森を立派に育て、苦しむ村人たちを救ったのです。今でも時おり聞こえるお囃子は、小太郎が吹く笛の音だといわれています。
山で修行し、災いから人々を守り続ける天狗。調子にのって自慢していい気になっている人を『天狗になる』といいますが、本物の天狗は……実は立派な人ばかりでした。
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第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
Posted by eしずおかコラム at 12:00