2012年08月23日
第3話 富士山三姉妹
富士山を世界遺産に!
2012年1月、富士山を世界遺産に登録するための推薦書がユネスコに提出されました。富士山は山なので、はじめは“自然遺産”としての登録が考えられていましたが、ユネスコの定める自然遺産としての価値に当てはまらないため、“文化遺産”としての登録を目指すことに。たしかに、私たち日本人にとって富士山は、単なる自然物の域を超えていますよね。まさに“霊峰”なのであります。浅間神社に代表されるような信仰の対象であり、歌川広重や葛飾北斎が描いた芸術、そして、和歌にも詠まれ、第1話でもご紹介した『竹取物語』や『源氏物語』、太宰治の『富嶽百景』など、文学においても大きな影響を与えているのです。
全国には、富士山と形が似た『○○富士』といわれる山が多数存在します。日本人の誇りである富士山が世界遺産に登録されることを祈りつつ、今回は富士山にまつわるお話をご紹介します。
富士山姉妹の悲しいお話
下田富士、駿河の富士、八丈島の富士は三姉妹で、姉の下田富士と真ん中の駿河の富士はとても仲良しでした。下田富士はいろいろと駿河の富士の面倒をみて、雨が降ればからかさ雲をかけてやり、風が吹けば手をのばして長い雲で覆ってやりました。
やがて年が経つにつれ、駿河の富士はだんだんと美しくなっていきました。長いすそを麓一杯に広げ、朝日夕日に輝き、頬は紅色に染まり、その艶やかさは誰もかないません。それに比べて下田富士は、ごつごつしていて、丸く膨れたボタモチのような顔で、とても美人とは呼べませんでした。下田富士にとってそれはたまらない悲しみとなり、妹を妬み、だんだんと顔を会わせるのが嫌になりました。
どことなく悲しそうな雰囲気が漂う
そしてとうとう、伊豆と駿河の間に大きな屏風を立てて、妹がのぞいても見えないようにしてしまったのです。その屏風が天城山です。気立てのやさしい駿河の富士は、そんな姉のことが心配で、「姉さんはどうしているんだろう。どうかお心持ちが治り、お顔を見せてくださいますように」と、毎日つま先で立ち、どんどん背伸びをし、反対に姉は顔を見せまいと体を縮めてますます背が低くなっていきました。そしてとうとう、駿河の富士は日本一高い山になったのです。こうした姉達の様子を見て心配した八丈島の富士は「どうか姉さん達がまた元通り、仲良しになりますように」と、遠くの海から一人、一生懸命、祈り続けていたそうです。
思春期の姉妹にありがちな悲しいエピソード。みなさん、駿河の富士を見た時はその美しさの向こうに下田富士の悲しみを感じ取り、下田富士を見た時は「姉さんよ、あなたには妹とはまた違った美しさがあるのだよ」と言ってあげてください。自然のものを擬人化して悲しいお話を創り出す日本人の心の美しさに脱帽。やはり富士山は、文化遺産としての価値も高いといえましょう。
下田公園から眺める下田富士
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第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
2012年1月、富士山を世界遺産に登録するための推薦書がユネスコに提出されました。富士山は山なので、はじめは“自然遺産”としての登録が考えられていましたが、ユネスコの定める自然遺産としての価値に当てはまらないため、“文化遺産”としての登録を目指すことに。たしかに、私たち日本人にとって富士山は、単なる自然物の域を超えていますよね。まさに“霊峰”なのであります。浅間神社に代表されるような信仰の対象であり、歌川広重や葛飾北斎が描いた芸術、そして、和歌にも詠まれ、第1話でもご紹介した『竹取物語』や『源氏物語』、太宰治の『富嶽百景』など、文学においても大きな影響を与えているのです。
全国には、富士山と形が似た『○○富士』といわれる山が多数存在します。日本人の誇りである富士山が世界遺産に登録されることを祈りつつ、今回は富士山にまつわるお話をご紹介します。
富士山姉妹の悲しいお話
下田富士、駿河の富士、八丈島の富士は三姉妹で、姉の下田富士と真ん中の駿河の富士はとても仲良しでした。下田富士はいろいろと駿河の富士の面倒をみて、雨が降ればからかさ雲をかけてやり、風が吹けば手をのばして長い雲で覆ってやりました。
やがて年が経つにつれ、駿河の富士はだんだんと美しくなっていきました。長いすそを麓一杯に広げ、朝日夕日に輝き、頬は紅色に染まり、その艶やかさは誰もかないません。それに比べて下田富士は、ごつごつしていて、丸く膨れたボタモチのような顔で、とても美人とは呼べませんでした。下田富士にとってそれはたまらない悲しみとなり、妹を妬み、だんだんと顔を会わせるのが嫌になりました。
どことなく悲しそうな雰囲気が漂う
そしてとうとう、伊豆と駿河の間に大きな屏風を立てて、妹がのぞいても見えないようにしてしまったのです。その屏風が天城山です。気立てのやさしい駿河の富士は、そんな姉のことが心配で、「姉さんはどうしているんだろう。どうかお心持ちが治り、お顔を見せてくださいますように」と、毎日つま先で立ち、どんどん背伸びをし、反対に姉は顔を見せまいと体を縮めてますます背が低くなっていきました。そしてとうとう、駿河の富士は日本一高い山になったのです。こうした姉達の様子を見て心配した八丈島の富士は「どうか姉さん達がまた元通り、仲良しになりますように」と、遠くの海から一人、一生懸命、祈り続けていたそうです。
思春期の姉妹にありがちな悲しいエピソード。みなさん、駿河の富士を見た時はその美しさの向こうに下田富士の悲しみを感じ取り、下田富士を見た時は「姉さんよ、あなたには妹とはまた違った美しさがあるのだよ」と言ってあげてください。自然のものを擬人化して悲しいお話を創り出す日本人の心の美しさに脱帽。やはり富士山は、文化遺産としての価値も高いといえましょう。
下田公園から眺める下田富士
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第1話 富士かぐや姫伝説 / 第2話 大瀬神社の神池
第3話 富士山三姉妹 / 第4話 遠州天狗伝説
第5話 羽衣伝説 / 第6話 函南「猫おどり」
第7話 野守の池の悲恋伝説 / 第8話 ダイダラボッチ伝説
第9話 遠州灘の海鳴り・波小僧 / 最終話 徳川家康公伝説
Posted by eしずおかコラム at 12:00